カットの本質
15 May 2008
では、ワンレングスだけ切っていればそれでいいのかと言うと
そうではないのだが、この”ワンレングス”から学ぶ事は
ものすごく多い。すべてのカットスタイルへの要素が詰まっていると
いっても全く過言ではない。 だから自分の中で決めたのだ。
せっかく時間のあるロンドンでの生活。毎日このワンレングスの
スタイルだけは必ずカットしようと。 そこに費やす時間は問題ではない。
1時間の時もあれば、30分の時もある。3時間4時間とかける事もある。
大切なのは毎日その作業の中で何かを発見する事だと思ってる。
立ってる足の位置だったり、肘の角度だったり、取った毛束の
厚さだったり、鋏の開閉 目線の高さetc…。
それが楽しい。
また、”10台のウィッグ人形を切るよりも一人の生きた髪”というが、
もちろんである。真剣と竹刀くらいの違いがある。人形10台15台
切るよりもお客様一人を切る方が遥かに勉強になるし何より、
そこには他では決して味わえない緊張感がある。そして限りない
充実感と反省という見返り。 たとえ子供の髪であったとしてもだ。
だからこそ、仕事の中で頭と気持ちがたくさんの事を感じた後は、次は
身体が感じなくてはいけないと自分は思う。仕事の中で技術が成長しない
とは言わない。ただ、一人二人ぐらい切っただけですぐにその”手”が
形を作る事はできない。そこでの答えが出るのは何十人何百人と
切った後だろう。積んで積んで積み上げて積み上げた時に初めて”技”となる。
お客様の髪を使って練習をするわけにはいかない。経験はいただけても、
仕事の中では常に自分にある中の最高の技術を提供するのがプロ。
頭で考えて気持ちで思っただけで上手くなるのなら、誰も努力はいらない。
考えて思った中でだからこそ、後に行動が生まれる。見直す基本の大切さが
でてくる。そこがあるから技術の追求が始まり、進化が始まるのでは
ないだろうか。
必然と ”習練が始まり修錬” となる。
逆に仕事の中で生きた髪に触れないままに人形だけを切っていたのでは
そこに魂は入らない。的がずれてくる。上手く切る事ができた”もの”に喜びを
感じるのと、向こうに相手を想いながら上手く切れる事に喜びを感じるのでは
当然美容師としての質が違ってくる。
どちらにお客様がカットしてもらいたいかを問えば答えは明確だろう。
綺麗なもの美しいものだけを作りたいのだったら美容師でなくてもできる。
目の前にある相手の気持ちを感じながら、自分の気持ちを髪に通して
形にしていく。上手く切ること、綺麗に切ることも大切なのだが、それ以上に
喜んでもらいたい気持ちがそこにはある。一緒に楽しみたい。時には喧嘩を
しても一緒に素敵なものが出来上がる喜びを感じ合いたい。
お客様商売ではあるが、技術を語るのであれば常に本音でぶつかりたい。
話がしたい。その為の自分の土台は毎日毎時間作っていく。
”眼” ”知識” ”感覚” が本物を知っていなくては提案どころではない。
会話すら薄く軽くなる。幼少の頃から現在までのたくさんの経験体験以外に、
自分のセンスを磨くのは日々の練習でしかない。訓練でしかない。
繰り返し繰り返し同じカットで人形を切る作業は毎回出来上がりが違う。
ライン・アングル・ウェイト・レングス全てが違う。 気づく事で少しずつ
身体に養われる。
”近道は無い 繰り返し繰り返し行う
何千回何万回…
気が遠くなるほどの反復練習 反復作業
それが 自分達美容師の一番の近道”